
Salesforceのバックアップ、どうしてる?
「Salesforceはクラウドだから、データは自動でバックアップされているはず」——そう思っていませんか?
実はこれ、多くのSalesforce管理者が陥りがちな誤解です。Salesforceは確かに地理的に離れた複数のデータセンター間でデータをリアルタイム同期しており、災害時のインフラ復旧には万全の体制を敷いています。しかし、それはあくまで「インフラの冗長性」の話。ユーザーの操作ミスや設定変更によるデータ損失からの復旧は、利用企業側の責任とされています。
これはSalesforceが公式に定めている「責任共有モデル」に基づくもので、2020年7月にSalesforceが自社のバックアップサービスを終了して以降、この原則はより明確になりました。
意外と多い「人的ミス」によるデータ損失
Salesforceが2018年のDreamforceで実施したアンケートによると、回答者の約28%がデータ損失や破損を経験しており、その最大の原因は人的ミスでした。
具体的にどんなことが起きるのか。たとえば、データローダーで一括更新をかけた際に、マッピングを間違えて数千件の商談データを上書きしてしまう。あるいは、管理者がページレイアウトやカスタム項目をうっかり削除してしまい、元に戻せなくなる。こうしたトラブルは、Salesforceを日常的に運用していれば誰にでも起こり得ます。
「でも、ごみ箱があるでしょう?」と思う方もいるかもしれません。確かにSalesforceのごみ箱は削除したレコードを一時的に保管してくれますが、保持期間はわずか15日間。さらに、データローダーのHard Delete機能で削除した場合はごみ箱にすら残りません。上書き更新された場合は、変更後のデータしか復元できないため、「元のデータに戻す」という用途には対応できないのです。
バックアップすべきは「データ」だけじゃない
Salesforceのバックアップを考える際に見落とされがちなのが、メタデータの存在です。
データとは、取引先や商談、ケースなど日々蓄積されるレコードのこと。一方、メタデータとは、オブジェクトの定義、項目の設定、入力規則、ワークフロー、Apexコードなど、Salesforceのカスタマイズ設定そのものを指します。
標準機能でできるバックアップ方法
Salesforceには、追加費用なしで使えるバックアップ手段がいくつか用意されています。

ウィークリーエクスポートサービスは、設定画面から毎週のスケジュールでデータをCSV形式で出力できる機能です。操作も比較的簡単で、まずはここから始めるのがおすすめです。ただし、エクスポート完了後48時間以内にダウンロードする必要がある点には注意してください。
データローダーは、より細かい制御が必要な場合に有効です。オブジェクト単位でデータを抽出でき、SOQLクエリを使えば条件付きのエクスポートも可能です。ただし、ある程度の技術知識が必要になります。
メタデータのバックアップには、Salesforce CLI(コマンドラインインターフェース)を使う方法があります。sf project retrieve startコマンドで組織のメタデータを取得できますが、こちらは開発者向けの手段と言えるでしょう。
サードパーティツールという選択肢
標準機能だけでは心もとない、あるいは運用の手間を減らしたいという場合は、サードパーティ製のバックアップツールが選択肢に入ります。

AppExchangeには、AvePoint(1日最大4回の自動バックアップ対応)、Veeam(オンプレミスやAWS・Azureなど保存先を柔軟に選択可能)など、複数のソリューションが提供されています。それぞれ特徴が異なるため、自社のデータ量、バックアップ頻度の要件、予算に応じて比較検討することをおすすめします。
バックアップだけでは不十分?「リストア」の落とし穴
バックアップを取っていれば安心かというと、実はそうでもありません。Salesforceのデータ復元には特有の難しさがあります。
まず、Salesforceではレコードを新規登録すると新しいIDが採番されます。つまり、バックアップから復元する際に、元のSalesforce IDをそのまま使って新規作成することはできません(IDを指定しての上書き更新は可能です)。さらに、取引先と商談、取引先責任者とケースなど、オブジェクト間にリレーションがある場合は、親オブジェクトから順にデータを登録し、新しいIDで紐付けをやり直す必要があります。
また、復元対象のオブジェクトにトリガーや入力規則が設定されている場合、復元作業中にそれらが意図しない動作を引き起こす可能性もあるため、一時的に無効化するといった配慮も求められます。
こうした複雑さを考えると、「バックアップを取って終わり」ではなく、実際にリストアできるかどうかを事前に検証しておくことが非常に重要です。
予防策も忘れずに
バックアップと並行して、そもそもデータ損失を起こさないための予防策も講じておきましょう。
たとえば、プロファイルや権限セットを見直して、一般ユーザーに不必要な削除権限を与えないようにする。重要なレコードの削除には承認プロセスを設ける。データローダーで大量更新をかける前には、必ず手動でバックアップを取るルールを決めておく。こうした地道な運用ルールの整備が、いざという時に組織を救ってくれます。
まずは「週1のエクスポート」から始めよう
バックアップ体制の構築と聞くと大がかりに感じるかもしれませんが、最初の一歩はシンプルです。
まずは標準のデータエクスポートサービスで週次のバックアップをスケジュールすること。これだけでも、万が一の際のセーフティネットになります。そのうえで、メタデータのバックアップ方法を検討し、必要に応じてサードパーティツールの導入を検討する——この段階的なアプローチが現実的です。
特に兼任でSalesforce管理をされている方は、バックアップの仕組みづくりを後回しにしがちです。でも、データ損失が起きてからでは遅いのです。「クラウドだから安心」ではなく、「クラウドだからこそ、自分たちで守る」。この意識を持つことが、安心してSalesforceを活用するための第一歩ではないでしょうか。
